将棋の格言を覚えよう
将棋には、長年にわたる数多くの対局の中から生まれた「格言」と呼ばれる短い言い伝えが数多く存在します。格言は「必ず従うべき絶対のルール」ではなく、あくまで多くの対局から見出された経験則ですが、意味を知っておくと、局面を判断するときの一つの目安になります。この記事では、特によく知られている10個の格言を取り上げ、それぞれどのような考え方を表しているのかを解説します。
歩のない将棋は負け将棋
「歩のない将棋は負け将棋」とは、持ち駒の歩が一枚もなくなってしまうと、実戦的な攻め筋を組み立てにくくなり、戦いが難しくなるという意味の格言です。歩は将棋の駒の中でもっとも価値が低いとされていますが(駒ごとの価値の目安は駒の価値と序盤の考え方で解説しています)、持ち駒として使える枚数が多いぶん、様々な場面で使い道がある駒でもあります。
例えば、相手の駒に狙いを定めて叩くたたきの歩や、歩を連続して打つことで相手の駒の働きを乱す継ぎ歩、相手陣のすぐ手前に打って迫る垂れ歩など、歩を使った実戦的な手筋は数多く知られています。持ち駒の歩が尽きてしまうと、こうした選択肢を使えなくなるため、対局中は歩を大切に使う意識が大切だと言われています。
王手は追う手
「王手は追う手」とは、王手をかけることが必ずしも良い手とは限らない、という意味の格言です。王手をかけられた側は、その王手にどう対応するかしか選べなくなるため、一見すると王手をかける側が主導権を握れるように思えます。しかし、王手のかけ方次第では、かえって相手の玉を安全な場所へ逃がす手助けをしてしまうことがあります。
そのため、実戦ではむやみに王手をかけるのではなく、玉の逃げ場をあらかじめ塞いでおいてから迫ることが大切だとされています。「王手をかけられる局面でも、本当に今かけるべきか」を一度立ち止まって考える習慣が勧められています。
玉の早逃げ八手の得
「玉の早逃げ八手の得」とは、危険を感じたら早めに玉を安全な場所へ移動させておくと、結果的に手数の得になる、という意味の格言です。「八手」という数字自体に厳密な根拠があるわけではなく、それくらい価値のある得だ、という強調の意味合いで使われる表現だとされています。
自分の玉が今どれくらい危険な状態にあるかを判断する感覚は、必至(必死)を覚えようで触れている「次にどう指されても詰まされてしまわないか」を意識する習慣とも深く関わっています。危険になってから逃げるのではなく、危険になる前に早めに動いておく、という考え方を示した格言と言えるでしょう。
大駒は近づけて受けよ
「大駒は近づけて受けよ」とは、飛車や角のように遠くまで利く大駒に攻められたとき、距離を取って逃げ回るよりも、あえて近づいて受けたほうがよい場合がある、という意味の格言です。飛車・角は遠くから利く分だけ強力な駒とされていますが(駒の価値と序盤の考え方もご参照ください)、逆に言えば「近づかれると窮屈になりやすい」という性質も持っています。
遠くから利いている大駒に対して安易に逃げ続けると、かえって攻められる範囲が広がってしまうことがあります。近づいて受けることで大駒の利きを遮ったり、身動きを取りにくくさせたりできる場合がある、というのがこの格言の考え方です。
竜の頭には金を打て
「竜の頭には金を打て」とは、成った飛車(竜王、単に「竜」とも呼ばれます)に直進されて迫られたとき、竜の進行方向の正面(頭)に金を打つのが有効な受け方だとされる格言です。竜は横方向にも利きが広がる強力な駒ですが、正面から金で押さえることで、まっすぐ迫ってくる利きを止めやすくなると言われています。
金以外の駒でも竜の頭を受けること自体は可能ですが、金は竜の直進する利きに対して安定して踏みとどまりやすい駒だとされ、この位置での受けに向いているとよく言われます。
桂馬の高跳び歩の餌食
「桂馬の高跳び歩の餌食」とは、桂馬を安易に跳ねさせると、相手の歩で攻められて負担になりやすい、という意味の格言です。桂馬は前方2マス・横1マスの位置にしか跳べず、他の駒のように横へ避けたり後ろへ引いたりしてかわすことができません。この弱点については基本手筋を覚えようの「桂頭の歩」で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
跳ねた桂馬がこの弱点を突かれると、前方へさらに跳ねて深入りするか、他の駒に助けてもらうしかなくなります。「跳ねたあとに困らないか」をあらかじめ考えてから桂馬を動かすことの大切さを説いた格言です。
中住まいは危険
「中住まいは危険」とは、玉を盤の中央付近に置いたままにしておくと、四方八方から攻められやすく危険だ、という意味の格言です。囲いは、玉を安全な場所に移動させ、周りを金将・銀将などで固めることで守りを固める考え方ですが、玉が盤の中央にとどまったままだと、この囲いの恩恵を十分に受けにくくなります。
中央は駒がぶつかりやすく、どの方向からも攻めを受けやすい場所だとされています。序盤のうちに玉を盤の端寄りに囲っておくことが勧められるのは、この「中住まいの危険」を避けるためだとも言われています。
金なし将棋に受け手なし
「金なし将棋に受け手なし」とは、金将は守りの要となる駒であり、金将が少ない・働いていない状態では、相手の攻めを受け止めにくくなる、という意味の格言です。駒の価値の目安としても、金将は銀将や桂馬より高く見積もられることが多く、守りの駒として重要視されていることがうかがえます。
攻めに気を取られて金将を早い段階で手放してしまうと、いざ受けに回りたいときに守りの手段が乏しくなってしまいます。攻めだけでなく、守りに使う金将の枚数や配置にも意識を向けることの大切さを示した格言だと言われています。
飛車先の歩交換は一歩の得
「飛車先の歩交換は一歩の得」とは、序盤で飛車先の歩を交換すると、実質的に歩を1枚得したのと同じような価値がある、とされる格言です。歩を交換すると、双方が歩を1枚ずつ持ち駒にしますが、先に交換を仕掛けた側は、相手より一手早くこの得を得られる、という考え方に基づいています。
序盤で飛車先の歩を交換し合うことが特徴とされる戦型に相掛かりがあり、この格言の考え方が実際の戦型選びにも表れている例と言えるでしょう。
遠い香車に用心
「遠い香車に用心」(単に「遠い香車」とも言われます)とは、香車は前方にまっすぐどこまでも利く駒であるため、離れた位置にあっても油断できない、という意味の格言です。近づいて初めて脅威になりやすい駒との対比で語られることがあります。端歩・端攻めの基本を覚えようで解説しているように、香車は前に駒がなければどこまでも進める性質上、離れた位置からでも強い利きを持つ駒とされています。
盤上の駒の危険度を、単純な距離の近さだけで判断してしまうと、思わぬところから香車に迫られてしまうことがあります。駒ごとの動き方の性質を踏まえて危険度を判断することの大切さを説いた格言です。