電王戦の歴史 — プロ棋士とコンピュータ将棋の対局記録
今では対局中継の画面に当たり前のように表示されるAI評価値ですが、将棋AI(将棋ソフト)がプロ棋士と肩を並べる存在として広く知られるようになったのは、2012年から2017年にかけて行われた「電王戦」というプロ棋士対コンピュータ将棋ソフトの対局企画がきっかけでした。この記事では、電王戦シリーズがどのような経緯をたどり、どのように決着したのかを、歴史的に確定した記録として紹介します。なお、現在の将棋ソフトの強さや評価値の見方そのものについては扱いません。そちらはAI評価値・形勢判断の読み方を覚えようで解説しています。
きっかけ — 米長邦雄とボンクラーズの対局(2012年)
2010年10月、女流棋士の清水市代(当時女流王位・女流王将)とコンピュータ将棋ソフト「あから2010」が対局し、あから2010が勝利しました。この結果を受け、当時日本将棋連盟会長だった米長邦雄永世棋聖が、自ら「引退棋士の代表」としてコンピュータ将棋と対局する意向を表明します。
そして2012年1月14日、米長とコンピュータ将棋ソフト「ボンクラーズ」(2011年の世界コンピュータ将棋選手権優勝ソフト)が対局しました。これが「第1回将棋電王戦」です。対局は113手でボンクラーズが勝利し、以後、プロ棋士とコンピュータ将棋ソフトの対局が「電王戦」として継続的に行われることになりました。
団体戦形式へ — 第2回電王戦から電王戦FINALまで(2013〜2015年)
2013年に開催された第2回将棋電王戦では、現役のプロ棋士5人とコンピュータ将棋ソフト5種による5対5の団体戦形式に拡大されました。第2局では佐藤慎一四段がponanzaに敗れ、「正式なルールで行われた現役プロ棋士戦」でコンピュータ将棋が初めて勝利した対局として注目を集めます。5局を通じた対戦成績はプロ棋士側の1勝3敗1引き分けでした。
2014年の第3回将棋電王戦も同様の団体戦形式で行われ、通算4勝1敗でコンピュータ将棋側が勝ち越しました。
2015年には「将棋電王戦FINAL」が開催され、5対5の団体戦としては最後の開催と発表されました。結果は3勝2敗でプロ棋士側が勝ち越しましたが、対局後には現役プロ棋士の中にも「ソフトの実力はすでにトップ棋士を上回っている」という見方が語られるようになっていました。
叡王 対 ponanza — 電王戦二番勝負(2016〜2017年)
2015年6月、電王戦の流れをくむ新たな棋戦「叡王戦」が創設されました。これ以降の電王戦は、5対5の団体戦ではなく、その年の叡王戦優勝者とコンピュータ将棋ソフトによる二番勝負という形式に変わります。
2016年、第1期叡王戦を制した山崎隆之叡王と、ponanzaとの二番勝負が行われ、ponanzaの2連勝で終わりました。
2017年には、第2期叡王戦を制した佐藤天彦叡王(当時は名人も保持)とponanzaの二番勝負が行われました。タイトル保持者が電王戦に出場するのはこれが初めてで、公開の場で行われるタイトル保持者対コンピュータ将棋の対局としては、2007年の渡辺明竜王対Bonanzaの対局以来10年ぶりのことでした。結果はponanzaの2連勝。名人経験者であってもソフトに歯が立たなかったこの結果は、将棋界に大きな衝撃を与えました。
その後 — 電王戦から叡王戦、そして評価値の時代へ
電王戦が終了した後、叡王戦は棋戦として続き、2017年からは正式なタイトル戦に昇格しました。現在は8大タイトルの一つとして数えられています。詳しくは用語集の「叡王戦」の項目で解説しています。
プロ棋士とコンピュータ将棋が優劣を競う対局イベントとしての電王戦は2017年で終了しましたが、これを機に「将棋ソフトの棋力はすでにトッププロを上回っている」という見方が将棋界に広く定着していきました。その後、対局形式のイベントに代わって、将棋AIを対局の検討や中継に活用する「評価値」の表示が将棋文化に根づいていきます。評価値の読み方や、対局を観戦することを楽しむ「観る将」というファン層については、AI評価値・形勢判断の読み方を覚えようや用語集の「観る将」の項目で詳しく解説しています。
将棋AIとプロ棋士の歴史をもっと深く知りたい方へ
電王戦をめぐる棋士・開発者たちのドラマは、当時の観戦記や書籍を読むとより深く味わえます。将棋AIの発展史をたどる書籍もあわせて探してみてください。
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